KILLZONE 2におけるキャラモデル量産手法

前回から引き続き、Character Modeling 3 のKILLZONE2についての記事を読みといていきます。

前回はキャラクターモデリングの制作テクニックの紹介がメインでしたが、今回はデータを量産する手法がメインに紹介されていました。KILLZONE2のキャラクターモデル制作の大半は、外部協力会社(上海のスタジオがメイン)が行ったようですが、クオリティを保ちつつ、大量のデータを量産する事ができたようです。

外部の会社と作業をする時は、自社メンバーとの知識差、お互いのイメージするものに違いがある事を前提として、その溝をどのように埋めて行ったのか、手法を紹介されていました。

以下、本の要約です

はじめに

  • クオリティを落とさずに、大量のモデルを制作する手法の解説
  • KILLZONE2で作られたキャラクターモデルの大半は、外部協力会社2社で制作された。
  • 今回はそのうちの1つ、Massive Black社を中心とした話

資料の準備

詳細な設定画

まずは基本となる設定画の準備段階で、積極的に詳細イメージを作り上げる。

  • キャラクター制作の基本となる、設定資料の提出
    • コンセプトアート
    • プロダクションデザイン資料(小物・衣装の詳細)
    • 全てのビューにから見たシルエット資料(三面図)
    • ゲームの仕様に準拠した、完成レベルの3Dモデルデータ
  • 詳細な設定画を描くメリット
    • これらの資料で、シルエット・プロポーション・ディティールなどを全て明示
    • 複数の角度からのデザイン画を制作する事により、自社内のデザイナ間での認識のすり合わせ
    • また、3Dモデル作成前に、衣服の重なり、構造上の不具合などを徹底的に洗い出せる
  • 補足資料
    • 各部位の素材については、写真からの引用も行う
  • お互いのイメージのズレを極力少なくするため、資料準備は積極的に行う。
キャラクターの量産に、実際のモデルを起用

このプロジェクトで問題となったのが、大量のキャラクターの頭部のモデリング。体は数種類のモノを共有(使い回し)できるが、頭部は1キャラ1キャラ、ユニークでないといけない。また、それらのキャラクターには、異なった性格・バックグラウンドがあり、それらを全て作り出す必要があった。

  • そこで大部分のキャラクターの制作に、モデル派遣会社を利用
    • 各キャラクターの印象・特徴と合う、実際のモデルを起用し、後日スタジオで撮影が行われる
  • 写真の種類は、
    • 頭部の写真
      • 資料用に全方位
    • 各種表情
      • 怒り
      • 笑い
      • 悲しみ
      • 瞬き
      • etc...
    • 口内、歯茎
  • この写真の利用は多岐に渡る
    • モデリングの下敷き
    • テクスチャ作成のベース(プロジェクションマップ)
    • フェイシャルのリファレンス(ブレンドシェイプ)
  • ゲリラゲームズは、写真の細かい特徴まで合わせるように指示し、頭部の情報量の統一を図った。
    • また、コレにより精密な情報量を持つ頭部のデザイン画の制作工数を削減した

作業工程でのズレを防ぐ

上記の資料を3Dモデル化する際、各アーティスト間で作業工程を統一するため、いくつかのツールを準備した。

カメラセットアップツール

撮影した写真をより正確にリファレンスとするための、カメラのセットアップツール。下記の機能を、可能な限り自動化する。

  • 撮影した時のレンズと、DCCツール上でのレンズの設定を統一
    • また、写真撮影した時の"距離"も、DCCツール上と一致
  • カメラ配置は、7箇所
    • 左45度
    • 正面
    • 右45度
    • トップ(頭上)
    • 後ろ
  • 正確なカメラ位置を得るメリット
    • 各方位からみた時に、リファレンスとしての信頼性が向上
    • テクスチャをプロジェクションした時にもズレが出にくい

これらの資料を元にモデリングすると、アーティスト間でのイメージのズレがほぼ起きなくなり、効率的な量産が行われる。

ヘッドパッケージツール

顔の各パーツのモデリングの際、1つのメッシュのままだと編集しにくいので、各部位ごと(歯・下・まつげなど)にメッシュを分割したい。ただ、ポリゴンを分割すると、ポイントオーダーが変わってしまい、ブレンドシェイプが破綻を招く。

  • このツールは、各オブジェクトを分割・マージした時に、ポイントオーダーを修正する
  • また、マージする時に、各部位のオブジェクト名を見て、自動的にシェーダーを割り当ててくれる
  • このツールは、メニューにある「Awesome!」ボタン一発で処理を開始する。

データのチェック環境の提供

納品データの不備を確認するため、実機と同じ見た目の環境を提供。

  • Maya上でのDefferd Render環境の提供
    • ゲーム中と同じプレビュー環境を提供して、最終イメージのズレを無くす
    • Maya上での素早いデータ確認
    • 全員分、リファレンスツールを用意することが出きない台所事情
    • 人数が増えても、容易に準備出来る

というような感じでした。

アーティストのデータ作成時にイメージがズレて「なんか違うなぁ?」と思うデータが上がってくるのは、指示が不足している事で起こる場合が多いのですが、「それやったら、徹底的にお互いのズレを無くしましょう!」という事を突き詰めると、こういう手法になるのだと思います。

たしかに、ツールが使えるアーティストに、上記の資料を渡せば、作業フローを2日くらいで覚えてしまって、すぐに量産できちゃいそうです。しかもクオリティもある程度保証されて…。表現の方向性にもよりますが、開発のアウトソーシングを考えると、たしかに合理的な手法ですねぇ。日本ではゲームのコンセプト・仕様などを徹底的に詰めて"誰にでもできる作業"に分割する。そして、ボリュームを増やすとなった段階で、各地にばら撒く。こういう手法が広まれば、ゲーム会社のあり方も変わってくるのかもしれません。

うぅん、KILLZONE2の例では、大規模な開発に焦点を当てていましたが、もう少し規模の小さい作品でもこのような事が行われているんでしょうか?海外では、このあたりの開発手法をまとめた書籍・講演などありそうですね。ちょっと気になってきました。