テクニカルアーティストの基本的な役割と、もう1つ重要な役割

先日から、テクニカルアーティストの資料を集めたりしてる間に、そういえば各社の求めるテクニカルアーティスト像ってなんやろってのが気になったので調べてみました。

昔のエントリーでも少し触れていますが、今回は各社のリクルートページのテクニカルアーティストの募集要項から情報を集めています。対象は任天堂BiowareElectronic Arts、UBI Softの計4社*1で、これらを横断して読んでいると、テクニカルアーティストに求めているスキルが、ある程度わかってきました。

共通する要素

アーティストとプログラマの橋渡し役

テクニカルアーティストを一言で表してくださいと言われると、この1行で説明できそうな項目ですね。これはほとんどの会社で書かれていますし、これから挙げていく項目全てに関連する要素だと思います。テクニカルアーティストの肝となる要素ではないでしょうか。

スクリプトが組める

MELやPYTHONなどが組めて、DCCツールを開発にあわせてカスタマイズするスキル。コレについても、ほぼ全社が募集要項で明言されています。「リードテクニカルアーティスト」などの上位職になると、チーム全体のパイプラインを見据える事も求められるようですが、ひとまず、テクニカルアーティストの最低条件のスキルとして、挙げられている所が多いようです。確かに、コレができなければ、ただアーティストとプログラマの間にいて交渉するだけの人になっちゃうので、まぁそうですよね。

また、言語としては"Python"と書かれている事が一番多く、次いで"MEL"。"Max script"、"VBscript"はほぼ皆無という状態でした。

アーティストの使う道具のカスタマイズ・メンテナンス

アーティストが使うDCCツールを、プロジェクトのワークフローにあったようにカスタマイズして、メンテナンスしていく責任があるとの事です。ここでは、DCCツール上のUIも含んだカスタマイズを指すようで、スクリプトを組めるだけではなく、使用者のニーズにあったカスタマイズを求められるようです。

芸術性にも秀でている

この項目は抽象的ですが、幾つかの会社で挙げられていました。ワークフローを整えていく間に抜け落ちがちな「確かにデータ作成の効率は良いけど、これじゃ思ったような表現出来ないぃ」って事がないように、表現の追求と、効率を求める要素をバランスよくトレードオフ出来る人材。っていう意味として捉えました。

キャラクターの陰影の階調を調整したい場合、トーンマップを使えばアーティストの思い通りになるけど、データ量とか調整の作業量が増えてしまう。とか、悩ましい問題も、プロジェクトのコンセプトに応じて、キッチり判断するって事でしょうか。*2

パイプラインの効率化

開発のパイプラインの効率化に責任がある。これは上記の、道具のカスタマイズの項目と重複する要素がありますが、もう少し大きな視点で、プロジェクトや会社単位のパイプラインを設計する責任って事のようです。

少なくとも1つは、DCCツールについての十分な知識がある。

モデリング・テクスチャリング・シェーダー・サーフェイス・リグ・アニメーション・ライティング・コンポジットなど、DCCツールで提供される機能を一通り押さえておけって事のようです。

これは、アニメーターなど1つの職種にベッタリだと、それ以外の要素が覚えれないので、中々大変です。でも、パイプラインの構築に必要な技能だというのも、十分理解できる項目です。

コミュニケーション能力

UBIさんの募集項目に「Strong communication skills」と書かれていましたが、我の強い連中と上手く調和して、お互いに取って効率の良いパイプラインを作ってくださいって内容だと思います。他の職種の募集要項では「Strong」と付かないだけに、よりコミュニケーション能力に優れた人が求められているようです。これはなかなか大変…。


と、ここまでが、ある程度各社共通して書かれていた内容です。また、募集の内容によっては、シェーダーライター、リガーなど、専門性を高めて募集しているものもあったので、そこで面白かったものを抜き出してみました。

専門性を重視した募集要項

シェーダライター

HLSLを使用してのシェーダ作成。ソフトウェア設計と、数学・物理についての知識を含む高い技術力が無いといけない。

リガー・モーション関係

MotionBuilderの知識、Human IKの理解。各キャラクターに合わせたリグの構築と、テクニカルサポート。アニメーションセットアップの決定、問題の解決をするための責任。

Perl/CGI

簡単なウェブサイト構築。主に社内の情報をまとめたり、データマイニングのために利用されるとのことです。自分はあんまり内容がわかってない項目ですが、ここまで要求される場合もあるんですね、ちょっと驚きました。

まとめ

テクニカルアーティストっていう職種を調べていて思ったんですが、もう既に、テクニカルアーティストっていう職種自体も細分化が始まってきていますね、「Character Technical Director」とか「Animation Technical Director」というように。特に北米では職種を細分化することで専門性を上げ、徹底的にワークフローの効率化を推し進めていっているようで、ちょっと焦ります。

先日エントリーした、KILLZONE2の量産体制からも、美味しいところ(コンセプトとなるゲームデザインや、それを実現するワークフロー、etc)は社内で整備して、大量生産が必要なデータは人件費の安い国に投げて量産する、ってのを本格的に取り入れているようでした。

そういえば、そういう話をどこかで聞いたなぁと思って検索してたら、Twitterでフォローさせていただいている、gjyutuya1さんがRetweetされていたつぶやきが見つかりました。*3

gjyutuya1:

RT @pigeon6: 実際GDCのテクニカルアーティストパネルに参加して何におしっこちびったって、奴らはシンガポールやマレーシアに乗り込んでいって、ソフトを全部渡しマニュアルも作って、向こうの外注スタジオのデータ制作環境を社内スタッフと同じレベルにするまで教育する、というのはすでに当たり前になっている

コレがテクニカルアーティストの実態なんでしょうね。確かにここまでの動きができたら、人件費の安い国でも、質と量をある程度保証した状態で生産が出来る。なるほど、やっと繋がってきました。テクニカルアーティストって、内部の体制を整えるってのは当たり前の仕事で、もう1つ重要な役割として、外部での量産体制を整えるための主要部隊になるんじゃないのかな?つまり、テクニカルアーティストがいないと、質と量を伴った外部での量産体制が築けない…。

んっ、これちょっとヤバクないか…。そんな体制完成させてる会社、日本にあったっけ…?今さらですが、大変な事に気付いたような気がします…。

これは追加調査が必要そうですね、うぬぐぐっ。


関連記事

*1:他にもあると思いますが、ぱっと見つける事が出来たのが、この4社です。

*2:この場合、よっぽどの事が無い限り、自分ならバッサリ切りたいですが。

*3:すいません、元のpigeon6さんのやつは見つけられませんでした。