サンジゲン 「フルCGリミテッドアニメーションへの挑戦」

昨日に引き続きAutodesk Design Innovation Forum 2010 のセッションレポートを書きます。

今回は映像会社のサンジゲンさんの、3DCGを利用したリミテッドアニメーションへの挑戦についての内容です。後半の内容(カットごとの単価など)については、完全にノートに取りきれなかったので、割愛しています。

追記 (2010年6月3日 13:20)

スギログさんでも、Autodesk Design Innovation Forum 2010のレポートが上がっていましたので、併せてご覧いただくと良いと思います。

概要

サンジゲン 「フルCGリミテッドアニメーションへの挑戦」
会場で紹介されていた3Dリミテッドアニメ


はじめに

サンジゲンの目標
何故、フルCGリミテッドアニメーションなのか?
  • 海外ではフルアニメーションが主流だが、日本では予算の都合などでリミテッドアニメーションが主流になった
    • リミテッドアニメーションは独自の表現を生み出し、既に馴染み深い表現になってしまっている
    • キャラクターに感情移入する際の障壁もあまり無い
  • 最近話題の3D(立体視)にも、3Dモデルを利用しているので対応しやすい

→自分たちに刷り込まれた、リミテッドアニメーションには、重要な機能があると確信

3DCGでリミテッドアニメーションをやろうと思ったきっかけ

リミテッドアニメへの試み1
  • 完成された既存のアニメを3DCGのキャラでトレースする実験
    • 3dsMaxのBipedを使用
    • マテリアルのフォールオフでセルの塗りを調整する
    • Illustrate!でライン出力
  • 20カット程繋いでテストしてみた

→この手法は意外といけると確信

リミテッドアニメへの試み2
  • フルコマ・2コマ打ち・3コマ打ち・2コマ3コマの使いわけ
  • 動画部分の自動計算を極力減らし、全てのコマで「意図した絵」を表示する

→3Dのアニメーションでありがちな、機械的な中割りを廃止し、全ての人間の目で判断して決めていく
→この方法を強いる事は、CGアニメーターを育てる上でも非常に重要

コストマネジメント

コストマネジメントの考察1
  • 一般的な深夜アニメ、1話辺りの予算は1000万〜1300万程度(作品によってもまちまち)
    • ここから、監督・デザイナー・背景美術・編集・音響費等々が引かれて、600万が残る
  • 1話に必要なカット数は300カット平均必要となる
    • 1カット辺りの単価は2万円

→ビジネスとして成り立たせるには、1話を600万円で製作する事が必要となる

コストマネジメントの考察2
  • モデリングのコストの問題点と解決方
    • 現代・近未来物以外は、全て新規でモデリングが必要
      • 他作品で使用したデータをアレンジして使用
      • 市販のモデリングDBの活用
  • 特殊なキャラクター・衣装はコストがかかる
    • リファレンス化を前提にコストを見積もる
製作期間

2クールもの26話であれば、16ヶ月かかる計算

  • 1話あたり製作期間が、1.5〜2ヵ月かかる
    • チームを4ラインに分割しローテーションで製作
    • 1ラインが6、7話分担当する計算

人員采配のマネジメント

三次元の三種類のディレクター
  • マネジメント・ディレクター(ラインディレクター)
    • 現場の進捗状況の管理
    • スタッフ管理
    • 設定の管理
    • 人員采配
  • クリエイティブ・ディレクター
    • 絵作りの統括
    • 人材育成
    • 作画監督レベルのスキルが必要
  • テクニカルディレクター
    • 社内ツールの整備を行い、生産効率を上げる
    • 作品ごとには置いていない
    • 現在の会社規模だと、1人いれば十分
1ラインの内訳
マネージメント・ディレクター 1名
クリエイティブ・ディレクター 1名
3DCGアニメーター 5〜6名

※3DCGアニメーターはモデリング・アニメーションまで行う

  • 2ヶ月で300カット(1話分)必要
  • 1ラインの目標
    • 1人辺り、月産18.8 〜 25.0カット
工程別の分業制について

サンジゲンでは、工程別の分業性を排除している

廃止した理由
  • クリエイティブな視点
    • 原画・動画・撮影などの工程にも関わる
  • マネジメントの視点
    • セクショナリズムの発生を押さえる
      • 「これは私の仕事じゃないから」を廃止
    • モノのやり取りのロスの方が大きい
カットごとの分類
略称 内容 詳細
T 止め 静止画1枚で、動くモノが無いもの
TA 止めアニメーション 止めだが一部がアニメーション(ヘリのローターなど)
A1 level1 アニメーション キャラクターが1人登場するカット
A2 level2 アニメーション キャラクターが2人登場するカット
A3 level3 アニメーション キャラクターが3人以上、またはそれ以上
BG 背景 背景のみのカット
BANK バンクカット 変身・合体など、毎話使い回しするカット

今まで担当したカットの分析

略称 カット数
T 43
TA 47
A1 128
A2 60
A3 30
BG 7
BANK 11
Total 326
スキルごとの役割
経験年数 担当するカット種別
新人(1年未満) T / TA / BG / BANK
若手(1〜3年未満) TA / BG / BANK / A1
中堅(3〜5年未満) A1 / A2
ベテラン(5年以上) A1 / A2 / A3

※スキルにより変動することもあるとの事です

今後の展開

キャリアパス
  • 作画と3Dリミテッドアニメが違和感なく、CG画面内で混在させる
  • CGアニメータの熟練度を上げる
    • 制作費、制作スケジュール
  • CG・作画ハイブリッドアニメーションを製作する
  • ビジネスとして通用する、フルCGリミテッドアニメーション

→しかし、最近は各アーティストの味を出せるところまで熟練度が上がってきている

この先は...

今後は、作画ライクでもアニメでもない、独自の新しいアニメ表現にたどり着きたい。そのため、現状はフルCGリミテッドアニメ表現を実現し、土台作りをしているが、その上にこそ、ビジネスとしても成り立ち、世界でも通用する新しい表現が実現できると確信している。

以上、ほとんどノートからの書き起こしですが、レポート終了です。

内容的には、3Dのリミテッドアニメーションを製作する為に技術を蓄えるとともに、コストのマネジメントも真剣に考えているようで、キチンと手堅く考えてるな、という印象でした。サンジゲンさんが将来的に目標としている、全編3Dリミテッドアニメの製作も不可能ではない。そう思わせてくれる内容でした。

今後も、この会社には注目していきたいですね。